第11回子ども万華鏡大賞公募展総評

-応募総数115作品に託された一人ひとりの輝く万華鏡世界-

審査委員長 京都教育大学名誉教授(専門美術教育)

村田 利裕

はじめに

子ども万華鏡大賞公募展のねらい

子どもの興味・関心と創作意欲を高めることをねらった本展覧会は、11回目となります。子どもの立体作品の公募展は実施が少なく、今回、第11回で115作品のご参加がえられたことに、審査員の立場ですが心よりお喜び申し上げます。

本年も自由に、想像の赴くままに万華鏡を制作する事で子ども達の心がより豊かに、より健やかに成長できることを目的として、「子ども万華鏡大賞公募展」は実施されています。

実施方法

1.主催及び共催

主催は、特定非営利活動法人京都万華鏡こう房・京都万華鏡ミュージアムであり、共催は、京都市教育委員会です。

2.募集期間

第 11回子ども万華鏡大賞の募集期間は、2023年7月19日(水)~2023年9月18日(月・祝)まででした。

 応募条件は、次の通りです。

① 未発表の完成した作品に限ります。出品点数等 一人2点まで

② 応募資格 3才以上の幼児・小学生・中学生

③ 応募作品は、高さ35㎝ 幅35㎝ 奥行35㎝以内の箱に入れて送付可能な作品

④ 工夫した点等を記載したエントリーシートの提出

 なお、全国どの県からも無料で応募できます。
 詳細は「第 11回子ども万華鏡大賞公募展」実施要項を参照下さい。

3.募集結果

 表1 部門ごとの応募者数と作品数

108人、115作品の応募がありました。2作品の応募を可能としているため作品数が多くなっています。各部門ごとの応募者数と作品数をまとめた表が、表1です。幼児は、8人であり全体の7.4%でした。小学生は、合計43人の応募で全体の39.8%でした。中学生は、57人であり、全体の52.8%でした。

応募者の地域別では、1都2府4県からの応募がありました。それを表にしたのが、表2です。美術館のある京都以外からも、多数のご参加をいただいています。ご応募をいただいていない県でも、自分自身の万華鏡をつくる面白さに興味をお持ちいただく潜在的な可能性はかなりあり、今後の課題としていく必要がありそうです。

 

表1 部門ごとの応募者数と作品数

部門ごとの応募者数と作品数幼児部門小学生
低学年部門
小学生
高学年部門
中学生部門県(府)合計
応募者数8192457108
応募作品数9222559115
 

表2 都道府県別応募者数

県(府)名幼児部門小学生
低学年部門
小学生
高学年部門
中学生部門合計
京都府712195795
大阪府13004
奈良県1001
東京都01001
千葉県01203
福岡県01203
佐賀県00101
合計8192457108

審査方法

1.審査員

審査員は、有識者、万華鏡の作家(専門家)、教育関係、京都万華鏡ミュージアムの4者で構成しています。一方向の見方だけでなく、多角的な観点で作品を見ようとしています。以下に各ジャンルの人数を示します。

  • 村田利裕 京都教育大学 名誉教授 1名
  •  万華鏡作家 1名
  •  京都市教育委員会 数名
  •  京都万華鏡ミュージアム 数名

2.審査日程と審査場所

審査日は、2023年10月4日(水)13:00~、審査場所は、京都万華鏡ミュージアム アートギャラリーでした。

3.審査手順

審査手順ですが、第1段階では、投票制によって全体傾向を掴みます。複数の票を持つため、最大得票の方が、必ずしも自動的にトップとは言えないので(例:全員の得票を得たとしても、個人の票の中では、全員が最下位の順位と認めた方かもしれず、審査員お1人が投票しなかったとしても、他の審査員はすべて1位の場合が起こりうるため)、第2段階では、第1段階の得票結果を視野に入れながら、最終的には、作品レベルや特性を確認しながら、合議で協議して、審査結果としました。

 受賞区分は、幼児の部、小学生低学年の部、小学生高学年の部、中学生の部の4区分とし、受賞区分ごとに、子ども万華鏡大賞、京都市教育長賞、京都万華鏡ミュージアム賞を出すこととし、作品レベルの実態に応じて、審査員特別賞、佳作を設定することとしました。

4.審査結果

発達的な各部門ごとに受賞数をまとめた審査結果は、表3(各部門ごとの受賞数ならびに各賞ごとの受賞数)です。応募作品において、質が高い作品が多く、3賞だけでは応募実態をお知らせすることができないと判断して、審査員特別賞、佳作を加えました。受賞結果の発表段階で53作品の作品特性や魅力と、受賞理由を個別にお示ししています。子どもの万華鏡には、大人の作品と比べても勝るとも劣らない発想力や文化的な魅力をもつ作品があります。作品ごとに具体的にご紹介しています。

表3 部門別の受賞者数

賞名幼児部門小学生
低学年部門
小学生
高学年部門
中学生部門賞合計
子ども万華鏡大賞11114
京都市教育長賞11125
京都万華鏡ミュージアム賞31329
審査員特別賞363618
佳作1331017
各受賞作品数合計912112153

5.作品展示と審査結果発表

会期は、2023年10月31日(火)~11月5日(日)、展示場所は、京都万華鏡ミュージアム 姉小路館アートギャラリーで行うこととしています。

授賞式は、日時 2023年10月29日(日)午前11時より実施する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の発生やインフルエンザの発生状況を視野に入れ、ネットワークのオンライン開催での発表となりました。

6.第11回の作品の新傾向と特徴

個別には、受賞53作品ごとに特徴分析を示しました。共通する大きな傾向性として、3点上げたいと考えます。

 第1ですが、万華鏡の中のオブジェクトは、これまで既存のものを選んで入れることしかできなかった傾向があります。ところが、今回、プラ板に白黒で描いたり、色彩で表現する事例もありました。自作のオブジェクトの登場と言うことができます。プラ板は、意外と細い線が描ける実態でした。また、透明なので絵を写しやすい傾向にあります。さらに形を切ったり、穴を開けたりもできそうです。どこかで見かけたことのあるオブジェクトではなく、どこにもないオブジェクトが万華鏡の無限空間に解き放たれるのです。一方、パンを焼くオーブンでこれを行うと、最悪のケースでは悪臭が消えなくなり使えなくなることも懸念されます。プラスチックの成形が有害物質を発することがあり、マスクや手袋の着用など、それへの防護対策をしておく必要もあります。

 薄いプラスチックは、お弁当のケースなど身近に散見されます。切ることも容易で、油性のペンであれば着色も可能です。焼き付ける必要も無いでしょう。アクリル製の描画材料であれば、強度もよい傾向にあります。ペットボトルの周りをおおっている薄いプラスチックは、色もカラフルで様々に切っておいて使えそうです。

 第2は、紙粘土の造形力が、かなり示された展覧会だと捉えています。色もつけられるわけですが、独特な表現に活用されていました。最初からよい形をねらうのではなく、鏡筒に握るようにどんどんつけていけばよいのだと考えられます。やりながら発想するという方法も視野に入れたいものです。

 第3は、一人ひとり、自分自身、個の着想と行動こそが、可能性の原点だということです。体験できる場所で、一通りやってみて、こんなのが面白そうだという自分の興味や発想を生かしながら、不完全でも試しに作ってみることが大切なようです。オイル型の万華鏡の優秀さが目の前にあると、水を入れた万華鏡の可能性が感じられなくなっています。水を入れた万華鏡で蓮の花を見る事例では、文化的にも精神的にも素晴らしい可能性が切り開かれていました。また、例えば花というテーマは何度も作られますが、捉え方はみんな違います。題名が同じでも、作品が大きく違う例が多かったと思われます。審査員特別賞や佳作の作品に、その人の捉え方の面白さという点で、かなりユニークな可能性が秘められていました。できれば展覧会場でご確認いただければ幸いです。きっかけ作りに是非、ホームページで作品や分析に触れていただければと思います。

 

・村田利裕 京町家 まち美術館の創設 (2023年4月から、子どもと障害児・者、美術教材の美術館をつくりました。 場所:京都市南区上鳥羽鍋ヶ淵町532番地)

主催:京都万華鏡ミュージアム